愛人や内縁の妻(夫)がいる場合の遺産相続はどうなるの?

愛人や内縁の妻(夫)がいる場合の遺産相続はどうなるの?

家族が亡くなることはとても悲しいことです。けれど同時に相続という、悲しんでばかりもいられない現実も発生します。一般的な家庭でも、相続となると色々と難しい問題が出てくることも少なくありません。

そんな中で、故人に愛人や結婚という形を取っていないパートナー、いわゆる内縁の関係の妻や夫がいた場合、ショックなのはもちろんですが、実際の相続にどう影響してくるのかとても不安になりますね。

今回、キレイごとではないちょっとデリケートな問題についてご紹介しましょう。

愛人と内縁関係、イメージは似て非なるもの

まず「愛人」と「内縁の妻(夫)」についてですが、結婚をしていない男女の関係であるという事は共通しているものの、社会的な立場は全く違います。

まず、愛人については、一般的に相手に配偶者がいる(既婚者である)ことを認識している上で、交際をしている関係だと解釈されます。
要するに、男女の一方もしくは双方が不倫の関係にある相手の事です。当然、法的保護などは何もありません。

一方、内縁関係は「事実婚関係」とも言い、籍は入れていないけれど事実上夫婦と同様の関係にある事を言います。法律上でも「婚姻に準ずる関係」として色々と保護されています。

最近では、内縁関係は完全な独身者同士ではない、つまり戸籍上の配偶者がいる場合にでも、その配偶者との夫婦関係が事実上破綻(離婚)している状況であれば、内縁関係として認められるようになってきています。

一夫一婦制の日本では、これまで内縁関係の片方または両方に戸籍上の配偶者がいる場合、「重婚的内縁関係」といって法律的保護は受けられないとされていましたが、時代の変化によって考え方も柔軟になってきているようですね。

ただ重婚的内縁の場合、内縁関係にある当事者たちは「内縁の妻(夫)」と思っていても、その戸籍上の配偶者からみれば、配偶者の相手はあくまで「愛人」という事になるのかもしれません。なかなか複雑です。

話が少し逸れましたが、ともかく、内縁の妻(夫)と愛人では法的保護の有無という大きな違いがあります。

愛人や内縁関係の相手に相続権はあるのか?

では、愛人や内縁の配偶者に相続権は発生するのでしょうか?
結論から言いますと、どちらにも相続権はありません。

愛人は当然のこととしても、内縁の配偶者には認められそうな感じがしますよね。
夫婦同然の生活をしていたのですから、例えば、内縁の関係が破綻した際には離婚と同じで、慰謝料請求や財産分与、年金分割などについては認められることがあります。

しかし、さすがに戸籍や血統が関わってくる相続権などの権利については、内縁関係にあっても認められていないのです。

特別縁故者

限られた場合ですが内縁の配偶者が相続財産を受け取れる場合があります。
それは内縁の配偶者に相続人が全くいない場合に、「特別縁故者」として相続を受け取る事です。

特別縁故者というのは、亡くなった人の身の回りの世話や介護に努めた者、長年一緒に生活をして生計を共にしていた者、亡くなった人の友人や親族の世話をした者に、該当する人のことを言います。
内縁の配偶者の場合、生計を同じくしていた者に当たりますね。

特別縁故者として遺産を受け取るためには、故人の相続人の不存在が確定した後3ヶ月以内に「特別縁故者の相続財産分与の請求」を家庭裁判所に請求をする必要があります。

それでようやく、故人の相続財産を受領する事ができますが、裁判所がどのような判断をするかはわかりませんから、必ずしも全て認められるわけではありません。

一切認められない可能性もあります。また、家庭裁判所の認定がでるまで相当の時間も掛かりますので、決して簡単な事ではないのです。

家業の共同経営

もう一つ、内縁の夫婦が共同で家業を経営して、その収益によって夫婦としての財産を築いてきたような場合、残された財産については夫婦の実質的共有財産として、残された内縁の配偶者の権利が守られる可能性があります。

内縁・愛人の認知された子供の相続権

お子さんがいて父親である男性がちゃんと認知をしていれば、非嫡出子としてではありますが、母親が愛人であろうと内縁の妻であろうと、子どもには正当な相続権が発生します。

そして、子どもの相続分に関しても、平成25年12月の民法改正で婚姻関係にある男女の間に生まれた嫡出子と同等となりました(ちなみに改正前では、非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1でした)。

それまで議論されていた、婚外子の相続差別問題が解消されたのです。

遺言書がある場合はどうなるのか?

遺言書

さて、法定相続人としては認められない愛人や内縁の妻(夫)ですが、「相続財産の全てを愛人、もしくは内縁関係の者に譲る」という適正な遺言書があった場合はどうでしょうか。

この場合、遺言の内容が最優先されますので、原則としては遺言通りに相続が執行されることになります。

つまり愛人や内縁関係であっても、遺産を受け取ることができるのです。

しかし、法定相続人がいる場合、本来持っている権利の一部を取り戻す「遺留分減殺請求」を実行する可能性が高いので、全てを受け取ることは難しいと思われます。

特に愛人の場合、遺言によって存在が発覚したことにより、当事者が死亡した後であっても、その配偶者から慰謝料を請求される場合があります。

また、その遺言書が愛人との関係、つまり不貞行為を維持するために書かれたようなものであれば、その遺言自体が無効になる可能性もあります。

ただ、遺言が自分の死後の愛人の生活を保護するようなものである場合は有効となります。

一方、内縁の妻(夫)の場合は、法定相続人が全くいない場合や、法定相続人が遺留分減殺請求の為の時間や費用などを惜しんで断念する場合も考えられますので、遺言の内容通りに全額相続できる可能性もないとは言えないでしょう。

ですから、内縁の妻(夫)に可能な範囲で遺産を相続させたいのであれば、適正な遺言書をきちんと作成しておくことが大切です。

遺産を相続できる範囲については、法律で正当な(戸籍上の)配偶者と血族の二本柱で定められています。

どれ程夫婦関係が冷めていて離婚と同じような状態であっても、法的に離婚をしていない限り、配偶者は常に相続人になります。

そして、血族としては子どもが第一順位となります。ただ、どのような子どもであるかは、民法でも特に定められていません。つまり、養子(戸籍上正当な子ども)、嫡出子、非嫡出子などの区別はしていないのです。

まとめ

特に遺言などが無い限り、愛人や内縁の配偶者には相続権はありません。
ただ、子どもがいて認知されている場合、その子どもには等しく相続権があります。

愛人については問題ですが、夫婦の有り方の一つとして内縁関係を選択するという事は、決して悪いことでありません。人それぞれの考え方がありますから。
今後、役立てる時がくるかどうかはわかりませんが、知識として覚えておいていいかもしれませんよ。

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