生前贈与を受けると、遺産分割の際に法定相続分が少なくなる可能性があります。
なぜ「可能性がある」のかというと、他の相続人が求めてこなければ生前贈与を遺産の考慮に入れなくても良いためです。
しかし、公平ではないという理由で、贈与を受けたのなら相続分を減らすべきだという意見は当然あるでしょう。
その場合は特別受益分を遺産に戻した額が相続の合計となります。
ここでは、生前贈与が法定相続分に与える影響についてご説明します。
どこまでが生前贈与?
生前贈与といってもどこまでが対象になるのでしょうか。
生前贈与をされたという認識がなくても、生前贈与と指摘される可能性があります。
例えば、親に払ってもらっていた学費です。
実際、兄弟で親の遺産の分割をいざ始めようとなったときに、大学の学費を親に払ってもらっていた者は、相続分からその金額が引かれるべきだという声が上がることがあります。
全員が大学に進学していれば問題にならないかもしれませんが、経済的な理由で大学進学を諦めたり、奨学金を借りたりした人からすれば、学費を払ってもらって相続も等分なのは不公平に思われます。
それでは高校の学費はどうなるのでしょう。
予備校の授業料や子供のときに買ってもらった高額な楽器は生前贈与でしょうか?
生前のお金のやりとりを取り上げれば、きりがありません。
手当たり次第に贈与と認定されては、どんどん遺産の取り分が減っていきます。
しかし、実際にはどういう出費が特別受益になるかは決まっているのです。
順を追ってご説明します。
遺産を分割するにはまず、遺産分割協議を
まずは遺産分割の手順からおさらいしていきます。
被相続人の財産は、死亡した時点で相続人に権利が移ります。
この時点ではまだ、誰が何を相続するのかは決まっていません。
しかし、所有を明確にしないと、名義変更や財産の処分ができません。
そこで行うのが遺産分割協議です。
相続人全員が話し合いに参加する形で協議は行われます。
必ずしも一堂に会する必要はなく、書面でのやりとりでも可能です。
遺産分割の方法と手続きの詳しい説明はコチラ
生前贈与を受けていた場合の相続分の計算方法
相続人が生前贈与や遺贈を受けていた場合、それらは特別受益とみなされます。
相続の分割が不公平にならないように、特別受益分だけ相続分から引かれます。
しかし、単純に法定相続分から特別受益分を引くと、遺産の合計が合わなくなります。
相続分を計算する際は、贈与分を財産に持戻して計算していきます。
次の例を見ていきましょう。
2人兄弟の兄が家の購入のために、被相続人である父から生前に1,000万円を受け取っていたとします。
父は3,000万円を遺していて、配偶者はいません。
この場合の相続分を算出するには、まず財産に生前贈与分の1,000万円を足します。
そして、それを2で割った金額が弟の相続分、そこから1,000万円を差し引いたのが兄の相続分となります。
- 弟の相続分:(3,000+1,000)÷2=2,000万円
- 兄の相続分:2,000-1,000=1,000万円
どのような利益が生前贈与になるのか
親と同居していたり、日頃からよく会ったりする場合、金銭を授受することは珍しくはないでしょう。
このような日常的な生活費のやりくりのようなものは特別受益にはなりません。
では、どのような利益供与が生前贈与とされるのでしょうか。
民法903条では以下のようなものが挙げられています。
- 遺贈
- 婚姻のための贈与
- 養子縁組のための贈与
- 生計資本のための贈与
具体的には、以下のものが特別受益とみなされます。
- 結婚の支度金
- 事業を興す際の資金
- 新築資金
- 土地の贈与
- 大学の学費
- 多額の生命保険金
- 多額の生活費
生前贈与分が相続分として持戻されない場合
生前贈与分は相続が始まったら自動的に持ち戻すものではありません。
遺産分割協議の際に、他の相続人から請求があって初めて対応すれば良いことになっています。
そのため、たとえば多額の結婚支度金を貰っていたとしても、誰もそれを指摘しないまま遺産分割が行われれば、問題はないのです。
ほかにも、以下の場合は生前贈与分を持戻す必要はありません。
- 相続人が1人だけの場合
- 遺言によって財産の分割方法が指定されている場合
- 誰も生前贈与の持戻しの請求をしてこない場合
- 財産がない、該当者が相続放棄したなどの場合
法定相続分よりも多く生前贈与を受けていた場合
遺産の額は人それぞれですので、中には生前贈与の方が相続分よりも多かったというケースもあります。
たとえば2人兄弟の兄が1000万円を父の生前に受け取ったとして、遺産が500万円だったとします。配偶者はいないものとして、特別受益分を持ち戻すと
- 弟の相続分 (1,000+500)÷2=750万円
- 兄の相続分 750-1,000=-250万円
となり、財産が法定相続分に足りていません。しかも兄の相続分はマイナスになってしまっています。
この場合、兄は相続を受けるどころか、弟に250万円を支払わなければならないのでしょうか?
生前贈与が相続分よりも多かった場合、法律では相続分はないと規定しています。
そのため、兄は0円、弟は500万円を相続することになります。
法定相続分よりも生前贈与を多くもらっていた場合は、相続分が貰えないこともあると覚えておきましょう。
分割方法がまとまったら遺産分割協議書の作成を
遺産をどのように分割するのかが決まったら遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書は必ず作らなくてはいけないものではありませんが、不動産の名義変更や金融機関での相続の手続きの際に提出を求められる場合があります。
後で相続人の間でトラブルが発生したときのためにも、記録に残しておきましょう。
作成しなかったことで不便な思いをしないように、用意しておくことをお薦めします。