遺産目的で親の介護をするのは悪なのか?また遺産分割に反映されるのか?

遺産目的で親の介護をするのは悪なのか?また遺産分割に反映されるのか?

遺産相続の際には、程度の差はありますが何かしら争いになることは少なくありません。

原因の1つが、介護の問題です。

介護してくれた事を理由に兄弟のうち1人だけに多く財産を譲る、極端な場合は全てを譲ると書かれた遺言が残されていた場合などです。

自分達ができなかった親の世話を、最後までしてくれたことに理解を示す兄弟姉妹であれば問題ありませんが、実際には争いになる事が少なくありません。

また介護する側も、そうした遺産の増額を期待して親の介護を引き受けていたとしたら、法定相続分通りに配分されることに、納得はしないでしょう。

今回は、相続財産と親の介護について考えてみましょう。また、介護と相続に関するある制度についてもご紹介します。

日本の介護事情

そもそも、日本の介護事情はどうなっているのでしょうか。

厚生労働省の発表をまとめた記事によると

 特別養護老人ホームへの入所を希望しながら入れない待機者が、昨年10月時点で全国で52万2000人に上ることが25日、厚生労働省のまとめで分かった。平成21年の前回調査(42万1000人)より約10万人増えた。

同省によると、全国の特養ホーム7865施設で受け入れ可能な高齢者は現在51万6000人で、すでに満床。それを上回る人数が“順番待ち”をしていることになる。

まとめによると、待機者52万2000人のうち、在宅介護を行っている人は約半数に当たる25万8000人。残りは老健施設や病院からの転入を希望していた。要介護度別では「3」以上が66%、より軽度な「2」以下が34%だった。

入所の必要性が高い要介護「4」「5」で、在宅のまま待機しているのは16・5%に当たる8万6000人(前回調査時6万7000人)だった。

(参照元:特養ホーム入所待機者52万人 厚労省まとめ、4年で10万人増

このような状況では、特養ホームに入所できない要介護者は、費用の高い民間の介護福祉施設に入所するしかありませんが、それも経済的に余裕のある限られた人達が利用できるものです。

あとはホームヘルパーや通いのデイサービスを利用しながら、在宅介護で支えていくしかありません。

重度の要介護者を自宅で介護している世帯も珍しくはないようです。

介護に対する意識

さて、親が介護を必要とする状態になった時に、施設に入所を希望しても簡単には入所できない状況では、必然的に子ども達で支えていく事になります。子ども全員で協力できれば理想的ですが、誰か1人が同居して介護をしなければならないという場合も多いでしょう。

その1人が、遺産を多く譲り受けたいという下心があって、介護を申し出たとします。

もし、より介護環境が整っている他の兄弟姉妹がいるのに無理やり引き受けて、親に不自由をさせているようでは、本当にお金目当てと批判されても仕方がないでしょう。

一方で、動機が遺産目的でもきちんと介護をして、親からも感謝されていたとすればどうでしょうか。

もちろん、お金のために親の面倒を見るというのは、違和感を覚える方も多いはずです。
他の兄弟姉妹にしても、介護を引き受けたくてもできなかったという事情があるかもしれません。

ただ、介護については要介護度が重度になればなるほど、介護する側の負担も大きくなっていきます。寝たきりになれば日常生活全般に介助が必要となりますし、場合によっては家もバリアフリーにリフォームしなければなりません。
加えて、認知症など発症して進行すれば、徘徊や奇行を繰り返す、自分の息子や娘の顔もわからない・・・など。

介護には実際に携わってみないとわからない大変な苦労があります。
仮に遺産目的だとしても、相当に厳しい生活を送ることになる場合もないとは言えません。

もちろん、年老いた親を子どもが世話をするのは、ごく自然なことです。でもだからこそ、親の介護のためとはいえ何人かいる兄弟姉妹の中で、1人だけが大きな負担を強いられるのは、不自然ではないでしょうか。

覚えておきたい「寄与分制度」

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実は、相続に関して生前、亡くなった人(被相続人)の財産の維持や増加、または療養看護など特別の貢献があった相続人について、遺産分割の際に法定相続分を超える遺産を相続できる制度があるのです。

これを「寄与分制度」と言います。寄与分というのが、被相続人に対する特別な貢献の分ということになります。

例えば、父親と一緒に家業の経営に励み、財産を増やすことに貢献した長男と、地元を離れてサラリーマンとして過ごしていた次男がいたとします。
父親が亡くなった時、父親の残した財産をそのまま2分の1ずつ分けると、不公平が生じてしまいます。

同じように、親の介護や看護のために家をバリアフリー化したり、病院へ行くのに毎回車で送り迎えしたりと、献身的に世話をした次男と、離れて暮らしていたので何もできなかった長男がいたと考えてみましょう。家のリフォームなど、明らかに介護のための費用がわかっているのに、何も考慮されずに相続財産が分配されるのは、やはり不公平です。

こうした不公平を無くすために用意されたのが、寄与分の制度なのです。

もちろん、寄与分を認めてもらうためには、他の相続人全員の了解が必要となりますし、話し合いでまとまらなければ、家庭裁判所に寄与分の額を決めてもらう申し立てをしなければなりません。

そのためには、特別な貢献をしたと具体的に証明できるものが必要になります。
介護や看護をしていたのであれば、要介護認定書や病院の診断書。また、家のバリアフリー化工事の契約書や領収書などです。

介護が必要だった者の程度、介護日数、具体的に掛かった費用、それらを総合して寄与分の額は決定されるのです。

まとめ

いかがだったでしょうか。
まともな世話もしないで介護だと装うことや、介護を受ける親から必要な費用を受け取っているのに自分たちが負担したと偽ることはもちろん悪であり、論外です。

けれど、寄与分制度があるように、本来全ての子どもで分担、協力すべき親の介護や看護を、おおよそ1人で担うことになった事実に対しては、特別な配慮があっていいのではないでしょうか。
もちろん、貢献度と具体的な寄与分のバランスについては、人それぞれの考え方があるとは思います。

兄弟姉妹のいる方は、もしも親に介護が必要になった時どうするのか。どうするべきなのか。一度、考えてみてください。

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